BLACKBOX









はじめに

START AHEAD

2トントラックを改造した日本酒を提供するためのモビリティバー。PHANTOM PROJECTという日本酒技術向上のためのプロジェクトの体験装置として制作。我々はブランド開発サポートとして最初期から関わらせていただいた。プロデューサーは別のプロジェクトも共にしたアグレッシブな実業家だ。今回は匿名のプロジェクトということもあって、顔は出せないが目力のあるハンサムな人だ。

課題意識

AWARENESS OF ISSUES

「茶道、華道、香道と、それぞれの文化には道がしめされているのに、日本酒にはそれがない」

なるほど。ブレスト中のプロデューサーからの発言だった。確かに、お茶の道、茶道とはいっても日本酒の道、日本酒道とは言わない。歴史を遡ると神に奉納する神聖なものだったのにもかかわらず、だ。

日本酒を楽しみための空間ってどんなもの?という答えのない解を探すこと

そもそも移動式のBARってどうやってつくればいいの?という製作の課題

この2つの課題を分解、整理して開発をスタートした。

CONCEPTの再発見

DISCOVER CONCEPT

茶道の「夜咄茶事」を模した暗闇の中で五感を研ぎ澄ます非日常体験。サービスされることが当たり前になって、受け身でいる、そんな常識へのアンチテーゼとして、説明もなく真っ暗闇の中へ放り込まれ、自分自身の評価だけを軸として、日本酒の味や温度、舌触りだけを記憶に残してもらうため空間の演出の方向性は「夜咄酒事」に決定した。

移動式のBARをつくるには?

HOW TO MOBIRITY BAR

私たちはトラックを1.5倍の幅へサイズへ“変形させる”ことに取り掛かった。

様々なメーカーや工務店に相談したが自信なさげに断られたり、目を剥くような予算額を提示されたり苦労した。1つのテーブルを囲み、亭主がもてなし、ゲストに一体感を持たせるアイデアを実現するにはどうしてもサイズが足りない、軽い気持ちで大きくすればいいか、と思っていたがここがこの後も自分たちを苦しめる要素になった笑 最終的にはある制作会社が偶然知人のプロジェクトを手伝っていたようで、そこなら大丈夫だろうとお願いする事にした

空間を黒に染める

MORE THE BLACK

暗く、色が存在しない暗闇の中でも手触りや光の反射などで違いを感じてもらうために様々な素材を黒で表現できないかと考え、木材、和紙、床の畳…ほとんどのマテリアルを黒くしている。照明は間接照明と足元にしかなく、営業はろうそくの光のもとで行われる。

和紙は外資系ホテルのアートワークなどを多く手がけるwajueさんへ相談。地平線に見える靄のような白と黒の和紙デザインを製作いただいた。マットな質感で、傷もつきやすいがその分光を吸い込んでくれる。謎の世界に連れ込まれたという演出と、写真1枚で「BLACK BOX」ということが伝わるアイコンとして取り入れた。亭主側の天井高を抑え、茶室の上下関係をこのトラックにも取り入れたもので、黒く凹凸感のある和紙を板貼に見たてバーバックから続くように貼り込んでいる。

カウンターは奈良で鉋を使ったやわらかな木工作品を生み出し続けている木工・森さんの製作。森さんの作品の持つ手に触れた時のフィット感を黒い世界に取り込むため相談した。黒のイメージのない森さんが黒で染めつつろうそくの光でも杉の木目がはっきりと見える最適解を導き出してくれた。カウンターは横から見るとふわっと羽のように浮いたような形、肘が通常当たる部分も大きく削り取っている。

椅子はプロデューサーの「日本酒に自分がなるってどうかな?」というイメージら日本酒の枡をイメージした霰組の背もたれにした。足元は畳を傷つけないように、トラックが移動するのでなるべくコンパクトに、カウンターの下に収納できるサイズ感を意識している。結果的に狙い通りさまざまな性質、質感の黒色が集まることで、なんだか捉えどころのないファントムという存在を逆に浮かび上がらせることができたと思う。すでに日本酒のイベントやペアリングなどで複数のイベントを行っているそうで、ゲストの感想も想定通り、未知の領域にふみ混んだ感覚をしっかり演出出来ているようで何よりだと思っている。アイデア段階から1.5年ほど、おそらく関係者全員にとっても思い出深いプロジェクトになったと思います。

CLIENT

PHNATOM PROJECT

BUSINESS SCOPE

  • SHOP BRANDING
  • PROJECT MANAGEMENT
  • SPACE DESIGN
  • DESIGN DIRECTION
  • PHOTOGRAPHER

    GEN HIRANO